おしまいに,量子エレクトロニクス技術の活用によってさらに進んだ量子情報処理技術を実現するために考えていることを書いてみます.ネタばらしになるのであまり具体的ではありませんがご容赦ください.
の3つを研究の柱としたいと思います.量子情報への応用を第一義に考えますが,考え方や手法が量子以外の光情報処理に役立っていけばよいな、と考えています.
光による量子情報実験で基本となるものはエンタングルした光子対の発生と光子検出ですが,どの自由度に情報を載せるかが重要になると考えています.様々な波長や自由度に対応できる技術の確立を目指しています.また,物質の量子ビットとの結合を考えたとき,光を小さな空間領域に閉じ込めることが必要になります.共振器は一つの解ですが,共振器に閉じ込められた光と伝搬光のカップリングという課題が出てきます.能動媒質を取り込んだ光回路(導波路集積)も有力な手段です.こういった技術はconventionalな光通信にも貢献できるものと考えられます.
量子情報プロトコルとして,現在の光エレクトロニクデバイスでできる量子暗号鍵配付システムの安全性保証のための研究や,エンタングルメントの応用,測定による状態の非ユニタリ的な変化と測定結果に依存したfeed-forward制御などによる量子情報処理の可能性を見極めたいと思います.量子アルゴリズム的な考えが情報処理の省エネルギー化に貢献できるかも知れません.
より高度な機能を実現するためには光と物質の量子ビット間のエンタングルメント,つまり光による物質量子ビットの制御による量子回路を考えていきたいと思います.プローブとして光を用いて物質の状態を知るというのは分光の基本ですが,これはプローブ光の状態を測定することによって(それとエンタングルした)物質の状態を射影するという量子情報的な読み替えが可能です.
量子情報デバイスに対する技術的な制約として,デコヒーレンスの問題は従来から知られており,スケーラブルな多量子ビット処理の障害となります.また、量子デバイスはナノスケールとなるので,寸法の精度やバラツキがデバイスの性能を制限します.これらに対してロバストな新しい量子情報処理スキームを量子情報理論に立脚して作り上げることを考えています.