エンタングルした光子対を生成するのに2次の非線形光学効果である、Spontaneous Parametric Downconversion (SPDC)が広く使われています. 分極反転(PP)による擬似位相整合を使うことでSHGなどの高効率化が実現されていますが, SPDCもこれによって効率が向上できるのではないかということで, 中国から来た史さんや江さんといろいろ試してみました. 最近のものはNECの吉野さん,南部さん,NICTの藤原さんたちと作ったものです.
もともとは,1550nm帯の光子検出器は効率が低く,しかもゲートパルスと同期させなければならないので2波長(800nm+1550nm)エンタングル光子対を作って800nmの光子をシリコンの光子検出器で受けてゲートパルスを作れば2光子同時計数率が上がるだろうということで南部さんと吉野さんが始めたものです.800nmの光子を空間で伝送すれば,例えば衛星と地上とのインタフェース(衛星は空間伝送,地上ではファイバ)や可視域に光遷移がある原子の量子メモリとファイバをつなぐのに使えるのではないかということを藤原さんたちと考えました.空間伝送やメモリとの結合には偏光を使った方が有利です.そこで,時間的に(コヒーレントに)分割した光子の位相がエンタングルする光子対検出器の出力の片方を(800nm)を干渉計を使って時間差を偏光に変換する方法を考えました.早いパルス遅いパルスと垂直-水平偏光が対応しています.
一つの結晶で分極周期が違う領域を作り,一つでSHG、もう一つでSPDCを行うことで1515.6nmのポンプから1431nm+1611nmの光子対を作ります.さらに,これを2つ使ってSagnac干渉計で右回りと左回りで発生する光子の偏光を90°変えることで偏光がエンタングルした光子対を作っています.
量子通信における代表的なプロトコルに量子テレポーテーションやエンタングルメントエンタングルメントスワッピングがあります.これらのプロトコルでは2光子の状態をBell状態に射影して測定する操作(Bell状態測定)が不可欠です. Bell状態測定は,CNOTゲートとHadamard変換からなる比較的単純な量子回路で実現できますが,線形光学素子ではCNOTゲートを確定的に行うことはできないことが知られています.
ここでは2光子吸収の偏光選択側を使うと量子干渉によりある一つのBell状態の2光子のみ吸収される(そのBell状態が検出される)ことを示して,吸収されずに抜けてくる光の状態を波長板で変換することで全てのBell状態が検出できるデバイスを構成することを提案しました.いいアイディアだと思うのですが,CuClのような2光子吸収の強い結晶でも共振器を使わないと検出効率が取れないのが頭の痛いところです.
光通信で用いられる波長1550nm対の光子を検出するにはInGaAs吸収層をもつアバランシェフォトダイオード(APD)を使います。最近では超伝導光子検出器の研究が進んでいますが、He温度への冷却が必要なため、簡単な冷却器で光子検出ができるAPDは捨てがたいものがあります。 SiのAPDに比べ、InGaAs-APDはバンドギャップが小さいためダークカウントが大きいという問題があります。そこで、光子が検出器に到着するタイミングにあわせてパルス電圧を印加しその時間だけ光子検出に必要な高い増倍率を持つようにする(ゲートモード)という工夫がされています。ところが、ゲートパルスをかけるとAPDのキャパシタンスの充放電によりパルスの立上がり、立下りに大きなスパイクが現れます。これによる誤検出を避けるためには信号検出の閾値を上げなくてはなりませんが、そうすると検出効率が下がるという問題が起きます。 そこで、APDを2つ使って(どうせ0と1を検出するために2個必要なので)出力電圧を差し引いてみました。回路は単純ですがうまく働いて、閾値を下げることができました。閾値が下がったため、増倍率も小さくてすむのでダークカウントやアフターパルスといった誤検出確率も下げることができました。
進行中