簡単に自己紹介します。私は量子コンピュータ、量子情報処理の研究を主にずっと行ってきました。日本においては学部の卒論のテーマから量子コンピュータを行ってきた初めての頃の世代ではないかと思います。その頃はまだ量子コンピュータ、量子情報を掲げた研究室はなくて、当時いた関西において自主的に集まった先生達が関西量子計算研究会というのを開いていて学部学生のときから参加させてもらいました。そこでの新しい研究が始まっていく息吹のような活発な議論がとても印象に残っておりそれに魅せられて私も研究の道に進むことになりました。修士卒でNTTの研究所に就職しまして約25年間勤めました。量子暗号のテーマによる縁で暗号理論のチームに入りました。量子鍵配送は技術的障壁は低いのですが、現段階で社会実装することの難しさが別途あったため、より先の未来に使われる量子暗号プロトコルをやろうということで量子コンピュータが実装に必要となるような量子マネー方式などの新しいプロトコル提案などを行いました。そうこうしているうちに、量子コンピュータを作らないと何も実現できないなという思いが強くなっていき、量子コンピュータの物理実装が行いたくなってきました。当時いた横須賀のNTT研究所のすぐそばの葉山に総研大があり光で量子情報の研究を行っている研究室があり社会人博士として入学しました(注:ただ、その後わりとすぐに研究室の移籍に伴い阪大に移籍)。そこで光を用いた量子コンピュータの実装を行いまして、光子を4つ生成して4光子の量子もつれ状態を生成し、測定型量子計算の実装実験を行いました。当時の技術力においては良い成果だったと思います。ただこの時行った非線形結晶を用いた光子の生成確率が低くて、このやり方で量子ビット数を増やすのは大変だと思い知らされました。(注:その後いろいろな技術が進歩しているので、また北大では光の実装実験も行おうと思っています。)そこで他の物理実装方式も検討を始め、冷却原子による大規模量子もつれ生成方式の提案をしたり、共振器量子電磁力学による決定論的な光子生成方式の研究をしたりとあれこれとやり、最近は超伝導量子コンピュータの物理実装をCRESTプロジェクトで始めました。超伝導においてはもう数十量子ビットの用意ができるようになっており、量子超越を実証できるような規模になっています。ただここからさらに大規模にしていくためには誤り耐性を得る必要があります。そのための符号化にさらにリソースが必要となります。符号化したままでも高速に量子計算を進めるために、復号方式やアーキテクチャにおいて様々な効率化を行っていく必要があります。よってここからが使える量子コンピュータの開発に向けた本当の勝負というか、ここから大きくスケールをあげて、精度高く、規模を大きくしていくためには分散処理、並列化などを高度に行なっていく技術を作る必要があり、まだまだやるべき山のような課題があります。そして有用な量子コンピュータに向けての貢献はまだまだ出来る余地があります。新しいコンピュータの実現に向けてハードウェアのレイヤから理論、ソフトウェアのレイヤまでたくさんやれることがありますので興味を持った方はぜひ声をかけに来ていただけると大変嬉しいです。
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